なぁ爆豪、と轟が俺を呼ぶ。
もう今更遅ェわ、と言ってやりたかった。
俺は――お前なんかを、もう追いかけたりしてねぇ。
「……爆豪。俺の事が嫌いなら、無視し続けてくれ。俺にも、お前にしちまったのと同じ事をしてくれ。そしたらきっと――鈍い俺にも、解るから。お前の何分の一かでも、傷付く事が、できるだろうから。だから……」
すでに傷付いたような横顔をして、轟が言葉を止める。
唾を一つ飲み込んで、それでもまだ口を開こうとしていた。
――なんて顔、してやがんだ。
心の中で呟いてから、笑ってやる。
「てめェ、自分がニブいって判ってんのかよ」
弾かれるように轟がこちらを向いて、なんとも言えない顔をする。
しばらく目を見開いたままで俺を見つめてから、下唇を噛んで悔しげに言った。
「……うるせぇ。俺だって、それくらい少しは判る」
「少しなのかよ。――言っとくが、てめェのニブさは相当だかんな」
俺の言葉に、眉を下げた轟が困ったように笑う。
「ズリィな、爆豪。……やっぱお前はやさしい」
轟の台詞に、グッと言葉に詰まった。
「てめェくらいだわ。そんなコト言うの」
顔を背けた途端、「お」と轟が声を落とした。
「皆知らねぇのか、爆豪がやさしいの。……そうか。俺だけが知ってんだな」
目を剥いて見返せば、何故だか満足げな顔をしている。
「バカかッ。キメェこと言ってんな」
「皆ずっと……知らねぇままならいいのにな」
目を細め微笑み見てくる轟から、「ケッ」と再び顔を逸らした。
「皆が知る前に、お前が気付くわ。俺がやさしくねェって」
どうだろうな、と答えた轟が、何かを思いついたようにクスリと笑う。
「だけど気付く為には、爆豪と長く一緒にいねぇといけねぇな」
「お断りだわ」
呆れて返せば、ムッとした雰囲気を隣から漂わせた。
「……言いふらすぞ、皆に。爆豪はやさしいって」
「どんな脅しだッ! てか、さっきと言ってっコト違うだろーが!!」
こんなくだらねェ言い合いにも、轟は楽しそうに笑う。
「…………意味、解んねぇわ」
――ホント。変わってやがんな、コイツはよ。