僕の言葉に振り返りかけて、けれどもかっちゃんは、前を向き続けた。
「そうだ! ないてねェ!!」
「ないてないッ!!」
「いやいや、フザけんな」
「ないてない!!」
あまりに僕達が「泣いてない」と繰り返し続けたから、中学生達が根負けして。
オールマイトの人形から足をどけると、悪態を吐きながら立ち去って行った。
「ん」
かっちゃんの泥まみれの手が、地面に座り込んだままの僕の視界に入る。
オールマイトの人形を、僕へと突き出していた。
見上げれば、もう一方の手で鼻血をこするかっちゃんの顔が、僕を見下ろしている。
「あ、あり……ありがとう……」
僕は滅茶苦茶に泣きながら、かっちゃんの泥まみれの手ごと――両手でオールマイトの人形を包み込んだんだ。
「かっちゃんは……かっちゃんはズルいよッ!!」
「あァッ!?」
「手を伸ばせば届くのに! 伸ばさないで、いつも受け身で!!」
涙が、溢れそうになる。
自分の声が震えていくのを、自覚していた。
「何、ワケ解んねぇコト――」
胸倉を掴んだままで怪訝そうに顔を顰めたかっちゃんを、滲む視界で睨み返す。
「僕には絶対くれない『場所』を、轟くんには空けてるクセに! 僕には望んでくれない言葉を、轟くんからは、聞きたいクセに!!」
目を剥いたまま凝視してくるかっちゃんを、これ以上は見返せず――腕で目を擦った。