幻の欠片 12


 

「お前が」

 

  両手をズボンのポケットに突っ込んだ征志が、静かに口を開いた。

 

 「お前が夢で……。いや、正しくは魂だけの姿で、ここ幾晩か会っていた相手だ」

 

 「え?」

 

 「だからさ。お前は寝ても夢を見ないし、眠気も取れない。だって、寝ていないんだからな。その上こいつは俺に気取られないよう、起きてる間はお前が思い出さないように記憶を封じていたんだ」

 

  ポケットに手を突っ込んだままで、肩を竦すくめる。

 

 「それが仇あだとなったな。肝心な今この時に、こいつと会っていたお前ではなく、俺と過ごしていたお前が目覚めてしまったんだから」

 

  フイと俺の顔を見た征志が、曖昧に微笑む。

 

 「どちらがお前の望むものなのかは、判らないけどな」

 

 「…………」

 

  征志から目の前の男に視線を戻す。しかしジッと地面を見つめる男は、俺を見ようともしなかった。

 

  俄かには信じられない。だけどきっと、征志が言う事は本当なのだろう。

 

 「俺は……」

 

  男と同じように、地面に視線を落とす。

 

  どれ程の時間をこの男と過ごしたのか、どんなふうに過ごしたのか、その欠片すらも思い出せない。

 

  なんと声をかけていいのか、それさえも思い浮かばないのだ。

 

 


オリジナル小説 小説ブログランキング