オリジナル小説

幻の欠片 20


 グイグイと強く揺すられて、俺は目を開けた。途端に、パシリと頬を殴られる。


 「イテッ!」


  勢いよく起き上がり、今度は額を思い切り何かにぶつける。


  「いってぇっ!」


  同時に耳元で声がして、俺は額を押さえながら、そちらを見遣った。


  兄貴が額を手で擦り、顔をしかめている。そしてハッとしたように俺の肩を掴むと、顔を覗き込んできた。


 「大丈夫か、トモ」


 「何が?」


  訳が解らず眉を寄せた俺に、それを見ていた兄貴も、怪訝に眉を寄せる。


 「何がって、今苦しそうにうなされてたじゃないか」


 「え?」


  そういえば、体中が汗でグショグショになっている。濡れた髪をかき上げながら兄貴を見上げると、呆れた目で俺を見下ろしながらも、安心したように小さく笑った。


 「あまり驚かすなよ。……孝亮の奴が夢に出てきた直後だったから、あいつがお前を連れていこうとしてんのかと思ったよ」


  ふぅーと細く息を洩らして、兄貴が呟いた。


 「……孝亮、が?」


  ピクリと反応した俺の頭を、ポンと叩く。


 「あいつが、そんな事。する訳ないのにな」


  俺を気遣う兄貴に、思わず笑みを零した。


 「なんだよ」


  むすりとして、兄貴が訊いてくる。


 「いや……。生きててよかったと思ってさ。俺のコト、心配してくれる兄貴を見れる……なんて、さ…」


  意識せず、ポトリと涙が足に落ちた。頬の、涙が伝った痕あとを掌で押さえて、征志の言葉を思い出す。