宿運 扉23


 

 「強い意志……ね。自分は助かりたいっていう?」

 

  俺の言葉に一瞬目を見開いてから、ヒョイと片眉を上げる。

 

 「……違う事ぐらい、俺が言わなくても解ってるんだろうな」

 

  短く息を吐いた上宮が、何か言おうと口を開きかけた。

 

  その時。

 

 「キャーッ!」

 

  耳をつんざくような悲鳴が、辺りに響いた。

 

  バッと振り返ると、さっきまでは人っ子一人いなかった道路に、たくさんの人があふれている。割れたショーウィンドウと、ガードレールに突っ込んだままのトラックを見て、パニックになっていた。

 

 「しまった! 結界が解けた! ……やっぱり、彼がいないとダメか」

 

  んー、と唸りながらポリポリと頭をかくと、上宮は俺の右腕を掴んで走り出した。

 

 「おい、ちょっ…。あのままでいいのかよ?」

 

  つんのめりながらついて行く俺に、上宮はグイッと俺の腕を引っ張って、耳元に口を寄せた。

 

 「きっともうすぐ、アスファルトが砕けてるのにも気付くぞ。あの状況でなんて言うんだ? 鬼がやりましたとでも? 信用されるか!」

 

 「孝亮(ユーレイ)がやったって言や、いいんじゃねーか?」

 

  アハハッと笑う俺に、上宮も呆れた笑みを洩らしたが、それでも足は緩めてくれなかった。

 

  空を見上げると、あの夜のように月が俺達を照らしている。

 

 

 

  なあ、孝亮。いつか時間(とき)の歯車は廻り始め、俺達はまた、必ず出逢うんだ……。

 

  そして、再び路(みち)は現れる。あの誓いを果たす為に。

 

 

 『二人なら、どこでだってきっと楽しめる。バイク乗って、タバコ吸って……。そうして……。そうして……ずっと…』

 

 

   ――ずっと一緒に過ごすんだ……。

 

 

― 完 ―

 


オリジナル小説 小説ブログランキング