「よく聞け、僚紘。俺は向こうでお前が来るのを待ってる。お前が来さえすれば、俺の夢も叶う。アセる必要はねぇ。きっちりケジメつけてから来い。俺達は、また逢うんだぜ、地獄でな」
ニッと笑って片手を上げた孝亮は、まるで明日も会えるかのように、あっさりと姿を消した。
今まで孝亮を掴んでいた両手を、ギュッと握りしめる。
「離すべきじゃ、なかったんだ。あの時! 突き飛ばされようが、蹴られようが……。決して、離しちゃいけない手だったんだ……」
もし、戻れるのなら――。もう一度、あの日、あの晩に。
戻れたのなら、もう二度とこの手を離しはしないのに……。
たとえ何が起ころうが、誰が邪魔をしようが、あの約束を守ってみせるのに……。
二人でなら、イギリスでも地獄でも、どこでだって構わなかったんだ。
歯を食いしばる俺の肩に、上宮がそっと手を乗せた。
「それでも俺は、鏑木が生きていてくれて、よかったと思ってるよ。……心から」
「え?」
振り向いた俺に、上宮はやさしく微笑んだ。
「俺はあの人に感謝してる。この世の全てを捨てても守ろうとした、あの人の『想い』に。そう、君の命を奪う事さえも厭(いと)わない強い意志に……。そして結果的に、君はこうして生きているのだから……」