「まあ、いいや。俺には解らねぇや。身さえ守れりゃ、なんでもいいのさ。鏡であろうが、棒っきれであろうがな」
両手を頭の後ろで組んだ孝亮は、ハッとして顔を夜空へと向けた。そうして睨むように、ゆっくりと目を細めていく。
「そろそろ……かな」
「ああ」
溜め息混じりに言う孝亮に、静かに頷いた上宮がチラリと俺を見た。
「この人は、君が助かるかどうかを見届ける為だけに残ってたからね。だから……」
「だから、死人はあの世へ逝くのさ」
「……孝亮」
孝亮はズボンのポケットに両手を突っ込むと、俺に目を向けて軽く肩を竦めた。
「じゃな、僚紘。早く傷治せよ」
「えっ? あ……ああ。この顔ね」
左頬のキズをさすりながら言うと、孝亮はいつもの目を伏せた微笑みを浮かべた。首を横に振って、コツンと俺の胸を叩く。
「違うよ、こっちの方」
「……治らねーよ」
「ん?」
「治るワケないじゃん。だって! どーすんだよ、あんたの夢。あんたがいないんじゃ……」
両手で孝亮の胸倉を掴む。顎を上げた孝亮が、ゆっくりと溜め息を洩らした。
「こーゆー奴だけど、よろしく頼むよ。上宮」
「………はい」
俺の両手首を掴んだ孝亮は、ギュッと力を込めた。