俺はそこを通り過ぎ、俺が倒れていた場所に缶ビールを置いた。
孝亮は、自分がバイクから放り出された場所から、血塗れの体を引きずって俺の所まで来たのだ。
その姿は、まるで何かから俺を守ろうとするように、俺に覆い被さっていたという。
『あの場所へは、二度と来んじゃねぇぞ!』
孝亮の声が、警告のように頭の中で響く。
時計を見ると、針は十二時をさそうとしていた。俺はタバコをつけて、ビールの前にそれを置いた。
「ピッタリ、あの時間だ。……孝亮」
手を合わせ、目を閉じる。それを合図とするように、それまでガヤガヤとウルサい程だった街の雑踏が、何かに吸い込まれるように、スゥーと消えていった。
『…ねぇお兄ちゃん。コッチ、来る?』
クスクスと笑いを含んだ子供の声が、すぐ耳元で囁いた。
それに反応して、ブワッ! と全身が総毛立つ。ビリビリと感じる程の、『殺意』
俺は、ガッと目を見開いた。すると、すぐ目の前。顔がくっつくかと思う程の距離に、幼い女の子の顔があった。
その女の子は、ガードレールにぶら下がるように両肘をついて、歪いびつな笑顔を浮かべている。
年齢とその表情のアンバランスさに、悪寒が背中を駆け巡る。
俺が呼んだのは、こんな訳解んねぇ女の子(クソガキ)じゃねぇ!