うんざりとした様子で話す男は、肩を竦すくめてみせた後、俺をギロリと睨んだ。
「どんな理由があろうと、命を捨てようなんて奴は、俺は許さない」
命を捨てるという表現になのか、許さないという言葉になのか、俺はショックを受けていた。訳の解らぬ衝撃に、反射的に言い返してしまう。
「別になぁ! 自殺したい訳じゃねぇぞ!」
「ほぉ…」
唇の片端を上げた男は、両肘を掴むようにして腕を組んだ。塀に凭れて、眉をそびやかす。
「自殺する気じゃないなら、なんで自分が死ぬ事に納得してるんだ?」
「…それは……」
俯いた俺の顔に、鋭い男の視線が突き刺さる。孝亮の名を出しかけて、俺は口を噤(つぐ)んだ。
長い沈黙にも動じない男は、腕を組んだままで俺を見つめ続けている。
「……………」
いつまでも黙っている俺に、仕方なく男は塀から背中を引き剥がした。
「まあ、聞きたくもないけどな」
溜め息混じりに言った男は、初めて笑顔を見せた。そのまま、何もなかったように歩き出す。
しばらくして「ああ、そうだ」と振り返った男は、肩を竦めながらあっさりと言った。
「死ぬのをやめたきゃ、しばらく家でおとなしくしてる事だな」