イマイチ状況が呑み込めない。仕方なく、征志の方へと目を向ける。征志はキュッと唇を引き結び、哀れみのこもった目でジッと俺の腕の中で震える男を見据えていた。
「鏑木。そいつは……」
「だまれぇーッ!」
征志の言葉を、男の鋭い声が遮さえぎった。男は一瞬俺を見てから勢いよく振り返り、征志へと飛びかかる。
「お前が! お前さえ、邪魔しなければッ!」
一瞬俺を見た瞳には、涙が浮かんでいた。俺を責めるでなく、それはただ絶望に彩られた、灰色の瞳。
「おい! ちょっ…と!」
征志の胸倉を掴む男を、後ろから捕まえる。
「どうなってんだよ」
俺の腕を剥はがそうと暴れる男を抱えたまま、征志に声をかける。
「こいつは、昼間この銀杏の樹にいた奴だ」
「うるさいッ! お前の所為だ。僚紘は言ったんだ、俺と一緒に逝くって!」
「えっ…?」
緩んだ俺の手に男が振り返り、グイッと俺の手首を引っ張った。
「僚紘。ほんとに俺を忘れたのか?」
縋(すが)るような男の目が、必死に訴えかけてくる。
「何、言って……」
見覚えもない男にそう言われても、俺は何も知らないのだ。