オリジナル小説
「まさか……」
聞こえる筈がない。俺は叫んだ訳じゃないんだ。独り言のように、呟いただけなのに……。
驚いた俺が彼女から目を離せずにいると、少女は右手を俺の方に差し延べるように突き出した。窓から身を乗り出し、今にも降りてきそうな雰囲気を放つ。
――が、その時。
突然強い風が吹きつけて、白いレースカーテンが彼女を隠してしまった。
強風に腕で顔を庇いながら、俺は一瞬、目を閉じた。
ガサガサガサ………。
木々の揺れる音が聞こえる。それに紛れてか細い声が、微かに耳へと届いた。
「私に力をください……」
と。
「な……にぃ」
俺は顔を上げ窓を見上げたが、そこに少女の姿はなかった。その上窓はちゃんと閉まっているし、カーテンもピッタリと閉じられている。
そんなバカな。俺が目を閉じたのは、ほんの一瞬だった筈だ。いくらなんでも窓を閉めた上に、カーテンまで閉じれる訳がない……。
俺は納得がいかず眉を寄せたが、現実なのだから仕方がない。まさかあの家に乗り込んで、
「今、女の子が窓から俺を見ていたでしょう?」
などと聞ける筈もない。
「まさか今の……」
俺は浮かんできた恐ろしい考えに首を振り、何も見なかった事にしよう……と、心に決めた。