階段を駆け上がって、辿り着いた四階の廊下。
自室へと向かう、かっちゃんの背中が見えた。
「かっちゃんッ!!」
叫んだ僕の声に、ピタリと足を止める。
「………………」
けれどもかっちゃんは振り返る事なく、再びそのまま足を踏み出した。
「こんの……、分からず屋……ッ!!」
「アアァァッ!?」
横顔だけで、かっちゃんが僕を睨む。
眉間にこれ以上ないくらい皺を寄せて、口を歪めて。
いつもの僕なら、ビビッてしまう表情だ。
かっちゃんもそれを知っている。
だからこそ今、その表情で僕を睨んでいるのだろう。
だけど僕だって、引くべき時じゃない場面くらい知っている。
今がその時だと、確信していた。
「かっちゃん! 話さないとダメだッ!! 今、轟くんと! じゃないときっと、後悔する!!」
ギリッと歯を食いしばったかっちゃんが、「黙れ」と低く言う。
聞き取れない程の低い声。爆発する寸前の、本気でかっちゃんが怒る直前の声だ。
「テメェには関係ねぇだろぉが」
「関係なくなんかないッ! かっちゃんは僕の――」
「黙れやデクゥゥゥーッッ!!」
かっちゃんの足が、床を蹴る。次の瞬間僕の目の前に立って、僕の胸倉を掴みあげると捻るようにして僕の背を、壁へと叩きつけた。
「何回も言わせてんじゃねぇよ、クソナードがァァッ」