ゆっくりと近付いて来ながら、少年が話しだす。俺はただ、ポタポタと地面に落ちる血と水の滴を見つめていた。
「ねぇ、一緒に逝こうよ」
両手でそっと、俺の腕を掴む。
「え…?」
俺の体を引き起こし、グイグイと腕を引っ張っていく。少年の足は、川へと向かっていた。
「…ちょっ…と、まっ…て」
「大丈夫だよ、苦しくないから。……それに。逝きたいんだよね? お兄さんも」
うれしそうに笑いながら言う少年の顔を、引きつった顔で見下ろす。
「鏑木ッ!」
聞き慣れた鋭い声に、俺は振り返った。
上宮征志が、息を切らせながら憤怒の形相で、俺を睨みつけている。
「い…よぉ。征志。学校行く気になったのか?」
俺の台詞に、ピクリと瞼を痙攣させる。俺を見つめたまま、征志は自分を落ち着けるように大きく息を吐いた。
「ああ。俺がついていないと、まともに学校へも行けない友人を持ってるもんでね」
いつものように嫌味混じりに言って、肩を竦める。顔には笑みを浮かべていたが、手には強く拳を握っていた。
「……征志…」
「なんで! お前はそんなにすぐに取り込まれんだよッ」
吐き捨てるように言った征志の声が、怒りを含んで震える。
「征志!」
「お前は、どう考えてるわけ? あの人が最後に言った言葉を。ケジメつけてから来いってのを、どう受け止めてるわけ? ……あの人がどんな気持ちで、一人で逝ったと思ってんだ? あの人と俺が! どんな、気持ちで……」
「…征志…」