「孝亮ッ!」
叫んで、俺は自分の声で目を覚ました。
暗闇を見渡し、ここが自分の部屋なのだと思い出す。
あの事故から一月半。やっと退院して、今日自分の家に帰って来たのだった。時計を見ると、十一時五十分を示している。
「……イヤな、時間だな……」
全身グッショリと汗に濡れている。額の汗を袖で拭って、再び枕に頭を埋めた。
あれから繰り返し見る、事故当日の夢。その中で俺は何度も孝亮と約束を交わし、何度も嫌な予感を口にした。それでも、夢の中ですら孝亮を助けられず、何度も孝亮は俺の目の前で血に塗(まみ)れてしまった。
左の頬を触って、縦に入ったキズを指先でなぞる。
あの事故で、俺の左頬と左腕には、大きなキズか残った。いや、それよりも俺は、取り返しのつかない一番大事なものを、あの事故で失くしてしまった。
「…孝亮…」
右腕で両目を覆う。
ドンッ!
その瞬間。誰かが蹴った衝撃でベッドが揺れた。
そして、もう一度。
「なんだ? 兄貴か? いつの間に……」
帰って来た兄貴が、様子を見に来たのかと思った。大学に入ってから毎日帰りが遅いのだと、母さんがボヤいていた。
でも、泣いた顔を見られたくない。